神奈川県茅ヶ崎市柳島から藤沢市鵠沼まで、およそ8キロの海岸線を結ぶ、湘南海岸サイクリングロード。
江の島、烏帽子岩、富士山など、相模湾の景色を見渡すことのできるこの道は、子どもから大人まで、湘南の海を愛する多くの人に親しまれています。
しかし、特にここ数年、台風や強風の影響で海岸の砂がサイクリングロードに積もってしまい、通行が困難なエリアも生まれています。
そんな状況を、楽しみながら解決していこうと動き出したのが、茅ヶ崎市民によって結成された「チーム砂山とんぼ」。活動の経緯や思いについて、代表の久保田恵子さんと郡恵美さんにお話を伺いました。
サイクリングロードを守るために、自分たちにできること
茅ヶ崎で建築設計事務所を営む久保田さんは、以前から強風によるサイクリングロードの被害が気になっていました。
昨年10月末に発生した台風21号によって、サイクリングロードのウッドデッキや防砂柵が壊れ、一部の道路が崩落してしまいました。県が復旧にあたりましたが、その時から「どうにかできないかな。たとえば防砂柵なら自分たちでも作れるんじゃないか」と考えていたのです。
そして今年の1月7日(日)、サイクリングロードをランニングしていた時に、砂が積もって自転車が通りにくい場所を見つけました。近くにたまたまトンボ(整地用具)が置いてあったので、それを使って砂をどけてみたら、道が綺麗になって気持ち良かったのです。
その時の様子や心境をFacebookに投稿した久保田さん。すると、知人友人から感謝や応援のコメントがたくさん集まりました。また、久保田さんが使用したトンボは神奈川県藤沢土木事務所が設置しているものだと判明します。
ちょうど同じ日にサイクリングロードをランニングをしていた共同代表の郡さんは、「トンボがもっとたくさんあればいいですよね。勝手に作って勝手に置いてたらダメかな」と投稿にコメント。そのままコメント欄は盛り上がり、トンボの作り方を調べるなど、自分たちにできることを考えていきます。
その数日後、状況を調査しにサイクリングロードへと向かった久保田さんと郡さんは、地図を見ながら、トンボをどこに何本置いたらいいかを確認していきました。
「チーム砂山とんぼ」活動開始
まずは、サイクリングロードの情報を共有するための掲示板を今年2月に作成。Facebookのグループ機能を使って、「江ノ島〜柳島サイクリングロードの情報共有しよう」というグループを立ち上げ、その日の砂の状況や、いつどこでトンボをかけたかを共有していきました。このグループは誰でも閲覧・投稿ができるため、さらに多くの協力者とつながっていきます。
そして、トンボを手作りするワークショップを4月30日(月)、8月14日(火)、9月9日(日)に開催。カラフルでオリジナリティに富んだトンボを制作し、サイクリングロードに設置していきました。
実は、このトンボにも、「チーム砂山とんぼ」のみなさんの思いが込められています。
トンボの材料は、茅ヶ崎市内の工務店さんから建築現場の端材をいただくなど、「地産地消」を心がけています。そうすることで活動が地域とゆるやかにつながり、海の問題からまちのことを考えることができたらいいと思っています。
楽しみながら、できる人ができる時に。
住民主体で動きはじめた活動ですが、やはり重機が必要な時もあります。活動を始めた頃、県や市によく電話をかけていた久保田さんは、行政と民間の関係について次のように語ります。
「自分たちで全部やろう」と考える必要はないですし、何でも電話一本で行政にやってもらおうという態度もよくありません。自然を相手にしている以上、完璧はないので、柔らかく対応していく必要があります。
自分たちのできること、行政のできることを、お互いに連携してやっていきたいです。住民の「こういうまちにしたい」という思いが、結果として行政を動かすのではないでしょうか。実際に、人の力ではできない場所は行政に重機を入れてもらっていますし、緊急なときは自分たちでトンボをかけています。
その他にも、壊れてしまったトンボを県の職員の方が補修してくれていたというエピソードを、嬉しそうに話すお二人。無理をせず、仲良く協力していこうとする姿勢は、「チーム砂山とんぼ」のキャッチフレーズである「できる人ができる時に」にも表れています。
「楽しい」という気持ちを一番最初に持っていたいと思っています。「やらなきゃいけない」と思ったら無理をしてしまうので、できる人ができる時にやれたら良いですし、実際とても楽しいですよ。
「えらいね」「素晴らしい活動ですね」と言われることよりも、置いてあるトンボをつい手にとって砂をかけているうちに、「この道だったら通れるね」となっていくことが嬉しいです。みんなで楽しみながら続けていきたいですね。
今後のタクラミは、サーフィン・ヨガ・トンボ?
今後は、もっと多くのトンボを作り、サイクリングロードが走る茅ヶ崎市柳島から藤沢市鵠沼までの全区間にトンボを設置することが目標だと、久保田さんは言います。
実は、藤沢市鵠沼にも、同じ問題意識からバケツリレーで砂を海岸に戻す「SAND BACK」という活動をしている方々がいるそうです。その方々とも既に情報交換や協力をする体制が出来つつあり、サイクリングロード全てが綺麗になる日も近いかもしれません。
さらに今後のタクラミを聞くと、お二人からユニークな答えが返ってきました。
たかがトンボですが、されどトンボです。トンボが、サーフィンやヨガに並んで茅ヶ崎を代表するイメージになったらいいなと思っています。例えば、トンボのキーホルダーを作ったり(笑)。
トンボは、楽しくて、エクササイズにもなって、おまけに人の役にも立つ優れものなのです。
実際に茅ヶ崎のサイクリングロードに足を運んでみると、通り抜けるのが難しいくらい砂が積もっている場所もあり、事態の深刻さを感じました。
しかし、そんな状況を悲観せず、誰のせいにもせず、楽しみながら解決しようとしている「チーム砂山とんぼ」のみなさん。茅ヶ崎に暮らす多くの人が愛着を持つ場所だからこそ、自分たちの手で大切に守っていこうとする思いが集まっていました。
次回のトンボづくりワークショップは、2019年1月以降に開催予定だそうです。参加してみたり、サイクリングロードに行った際にはトンボをかけてみると、楽しい出会いや発見があるはず。今後も、「チーム砂山とんぼ」の活動を応援したいと思います!
▼「チーム砂山トンボ」のFacebookページはこちら
https://www.facebook.com/sunayamatombo
▼Facebookグループ「江ノ島〜柳島サイクリングロードの情報共有しよう」はこちら
https://www.facebook.com/groups/1807920829231753
プロジェクト名 | 砂山とんぼ |
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始動年 | 2018年 |
代表者 | 久保田恵子さん・郡恵美さん |
ホームページ・SNS |
1996年生まれ。神奈川県茅ヶ崎市出身、藤沢市在住。2017年1月より茅ヶ崎駅前の「コワーキングスペース チガラボ」のスタッフとして働き出したことをきっかけに、地元・湘南地域との関わりを持ちはじめる。現在は「コワーキングスペース チガラボ」のスタッフのほか、月刊『ソトコト』の編集アシスタントも勤めるなど、パラレルキャリアに挑戦中。