「評価経済」、「感謝経済」といった言葉を耳にする機会が少しずつ増えてきています。
それらに共通しているのは、「お金」ではない尺度で価値を交換すること。時間やスキル、あるいはモノなどで、お金を介在させない新しい経済の形です。
今回紹介する加藤紘二郎さんも、これまでお金では表現できなかったモノやコトに対して価値を見出すために、新しい経済をつくる実験を神奈川県大磯町と茅ヶ崎市内で始められています。
加藤さんのタクラミである「地域やコミュニティ内での助け合いを増やす経済コミュニティ『JOMON(ジョウモン)』」について、お聞きしました。
JOMON Technology Lab. CEO。同志社大学商学部卒。米国公認会計士試験合格。会計事務所、SMBC日興証券および中堅投資銀行で投資銀行業務、リクルートを経て、2018年1月に「JOMON」の前身となる「シェアメシ」を立ち上げる。妻、娘(1歳)の3人家族、神奈川県大磯町在住。
金融機関に携わる中で感じた、「お金」に対する疑問
以前は証券会社を始め、金融の業界に従事されていた加藤さん。企業のM&A(合併や買収)に関わる中で、実態よりも価値が膨れ上がっていく金融経済に対して疑問を抱いたそうです。
証券会社に勤めていた頃は、大きな額が動くM&Aも担当していました。激務ではあるものの、収入も良く充実した日々を送っていましたが、資本力のあるものが資本力のないものを飲み込み、大企業がまたひと回り大きな大企業になって稼ぎを独占していく世界で、「結局、誰が喜んでいるんだろう?」と疑問を感じることもありました。
また、銀行の金利の仕組みをはじめ、今の金融経済は「お金持ちがよりお金持ちになっていく仕組み」と言わざるを得ません。
その後、加藤さんは、転職をした後に独立。海外赴任時に出合った「助け合いが当たり前の文化」を日本でもつくるために、「シェアメシ」という料理に特化したシェアリングエコノミー事業を都内で立ち上げました。
この事業は、主婦が空き時間に調理をし、家庭料理を地域の方に届ける「おすそ分け」と、そこから生まれる「ご近所づきあい」を目指したものでしたが、作り手のメリットも考えれば、時間をかけて栄養価の高いものをつくるとどうしても価格を抑えにくいのが難点でした。
コンビニ弁当などの安価な食事よりも値段が高くなり、その結果、もともと料理を届けたかった高齢者やシングルマザーの方に届けることが難しくなってしまいました。また、「おすそ分け」や「ご近所づきあい」のある地域コミュニティを目指していましたが、お金を払ってしまうと、払った側はどうしても「お客さん」になってしまいます。
「コミュニティには”お金”がない方が物事や関係性がスムーズに進むのではないか」と感じ、お金のないところで、食だけではない助け合いをしたいと思ったのが、「JOMON」立ち上げのきっかけでした。
助け合いの輪を広げる「JOMON」の独自通貨「DOKI」
そして今年9月、「お金では表現できなかったものに価値を見出す」というテーマで、新しい経済コミュニティ「JOMON」を立ち上げられます。
「JOMON」は、特定の地域またはコミュニティ内で利用できる独自通貨「DOKI(ドキ)」を価値の軸に、お互いがお互いを助け合うコミュニティです。
例えば、人手が必要な時や、何らかのスキルを求めている時、Facebookのグループ機能を使って募集をかけ、助けてくれる人と連絡を取り合い、課題解決後に報酬を「DOKI」で支払います。
特徴的なのは、課題解決に対する報酬の「DOKI」の量を、助けられた側が後から決める点。これにより、助ける側は「DOKI」をどれだけもらえるかが分からない状況で、見返りを求めずに行動をすることになるため、助けられる側が「お客さん」になることはありません。
また、「JOMON」の参加者が増えたり、課題が解決される度に「DOKI」も新規発行されていく仕組みを導入しているため、助け合いの輪はどんどん広がります。
インターネットの発展やクラウドファンディングの登場により個人の力が強まってきている今、半径1km以内の人と助け合えばだいたい何でもできるだろうと考えています。「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がありますが、助け合えば無理してお金をたくさん稼がなくても生きていけるのではないでしょうか。
助けてもらった人が次の誰かの課題に自分ごととして向き合い、そしてその「Give&Give」の考えがまわっていく、そんな社会を「JOMON」は目指しています。
大磯町と茅ヶ崎市内の有志メンバーで、「JOMON」試験版がスタート
「JOMON」は9月から試験版をリリース。
まずは、神奈川県大磯町の「大磯立ち飲み会議」で出会った5名の方と、茅ヶ崎市の「コワーキングスペース チガラボ」で出会った6名の方とそれぞれFacebookでグループを作成し、課題解決のマッチングの実験を始められています。
「課題がある人」と「解決できる人」のマッチングが成立すると、加藤さんを含めた3人でのメッセージグループを別途作成し、課題解決から「DOKI」の支払いまでを加藤さんが見届けます。現在は加藤さんが「DOKI」の流通履歴を一つ一つ管理されていますが、今後はWEB・アプリの開発も検討されています。
また加藤さんは、「JOMON」コミュニティを運営する上で「安心・安全」を何よりも大切にされているそうです。
オンラインでのやり取りが多い場合、安心は絶対に必要です。「このサービスは安全です」といくら言っても、心の底からそう思っていない人にとって、コミュニティ内で「◯◯を手伝ってください」とお願いするのは気が引けるはず。なので、直接顔を合わせて安心できる関係性をつくるために、大磯グループ・茅ヶ崎グループともに飲み会を定期開催しようと考えています。
今後のタクラミ
「『JOMON』をマネタイズすることは現状考えていない」と言う加藤さん。今後は、地域の加盟店で「DOKI」を利用できるようにしたり、日本各地で「JOMON」に参加するコミュニティが増えることも考えられていますが、目指すのはあくまで「お金以外で助け合い、支え合える社会」です。
通貨は流通しないと意味がありません。「DOKI」はあくまで助け合いを生み出すためのツールであり、潤滑油なので、貯めていても仕方がないのかもしれません。
以前赴任していたインドでは、困った時に助けてくれた友だちに「ありがとう」と言う度に、「友だち同士は助け合うのが当たり前なんだから、サンキューとか言うなよ」と言われていました。私が目指す「助け合いの社会」はそのような形であり、「DOKI」はゲーム感覚で贈りあってもらえれば良いと思っています。
「JOMON」試験版をはじめて約2ヶ月。ここから改善を積み重ね、数ヶ月以内にベータ版の開始を目指す加藤さんは、次のような意気込みを語ってくれました。
アイデアばかりこねくり回すことに意味はなく、行動が全てです。とにかく動いて、色々な人に伝えて、おもしろいと思ってくれる人と小さな革命を起こしていきたいと思います。
一見変わった試みに思える「JOMON」ですが、目指しているのは、助け合いが当たり前だった懐かしい社会なのかもしれません。お金のやり取りでは生まれなかった価値を見出し、助け合いの輪を広げていく「JOMON」のこれからが楽しみです。
次回は、どのような方が「JOMON」試験版に参加していて、「DOKI」は実際にどのように使われているのかについて伺いたいと思います!
プロジェクト名 | 評価経済型コミュニティ「JOMON」 |
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始動年 | 2018年 |
代表者 | 加藤紘二郎さん |
ホームページ・SNS |
ウェブサイト:https://jomon-community.com/
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1996年生まれ。神奈川県茅ヶ崎市出身、藤沢市在住。2017年1月より茅ヶ崎駅前の「コワーキングスペース チガラボ」のスタッフとして働き出したことをきっかけに、地元・湘南地域との関わりを持ちはじめる。現在は「コワーキングスペース チガラボ」のスタッフのほか、月刊『ソトコト』の編集アシスタントも勤めるなど、パラレルキャリアに挑戦中。