この記事は、「”書くこと”で地域と繋がる講座(全3回)」を通じ、講師のフリーライター池田美砂子さんのサポートのもと、参加者の木村美穂さんが地域で活動する方にインタビューし、まとめたのもです。
茅ヶ崎が好きですか? 「茅ヶ崎の宝」って何だと思いますか?
海や、茅ヶ崎の自然でしょうか? それとも、のんびりしたところ?
茅ヶ崎に50年お住まいの生悦住型造(いけずみけいぞう)さんは、それは、茅ヶ崎の元気なお年寄りが食べて来た茅ヶ崎の伝統食であると言います。
70代にして進化し続ける生悦住さんは、地元食材を使った茅ヶ崎の伝統食で、外国人観光客を呼び込もうとたくらんでいます。
「茅ヶ崎に、伝統食なんてあったかしら?」 子供の頃から茅ヶ崎で暮らす私は、そう思いました。
生悦住さんが見出した茅ヶ崎の魅力と、「茅ヶ崎インバウンドプロジェクト」の取り組みについてご紹介します。
農業体験と、茅ヶ崎の伝統食
「茅ヶ崎インバウンドプロジェクト」とは、季節の野菜や果物の収穫体験をして、それを健康的な食事に調理して味わうツアーを開催することで、茅ヶ崎に外国人観光客を呼ぼうというプロジェクトです。
– 新鮮な野菜を摘んで、果物を摘んで帰るのではなくて、それにまつわる食事をして帰る。 –
生悦住さんは、ツアーの柱を、「茅ヶ崎の伝統食」にすることにしました。
– 伊勢エビが出てくる、ステーキが出てくるというわけではなく、美味しい食事とはこういうのだと、粟飯を出すことで外国人のお客さんを掴みたい。 –
例えば、菜花を摘んで、天ぷらやからし和えなどにして味わうツアーや、竹の子を掘って、伝統食に調理して味わうツアー、自転車で海岸線を走ったあと、柳島スポーツ公園で地元食材の料理を味わうツアーなどです。
– 農家が作る食事を、普通に出してもいいんだけど、ちょっとお洒落に出すのもありじゃないかと。研究して・・・。 –
「茅ヶ崎の宝」 と 「ふくの会」
銀座でデザイン事務所を経営していた生悦住さんは、茅ヶ崎と東京を往復するだけの生活で、事務所を社員に譲ったあと、初めて茅ケ崎に田園風景があることに気付いたそうです。
その後、文教大学の観光科の先生による、「茅ヶ崎の宝を探せ」という市民講座を受講した生悦住さんは、講座終了後、他の受講生とともに、「ふくの会」という茅ヶ崎の観光をテーマとした市民団体を設立しました。
「ふくの会」は 20人くらいのメンバーで、茅ヶ崎の色々なところを見て、美味しいものを食べるという活動をずっとやって来たそうです。
– いい自然の中を歩いて、茅ヶ崎の美味しいものを食べる。
もう一つは、昔の神社仏閣を訪ね歩いて、美味しいものを食べる。 –
「ふくの会」はまた、『再発見!茅ヶ崎の伝統食』という本を企画・制作しました。
茅ヶ崎のお年寄りの元気の秘密は 食事にあるのではないかと、茅ヶ崎の芹沢、柳島、南湖に住むお年寄りに生悦住さんが取材をした内容をまとめ、茅ヶ崎市市民活動げんき基金の補助により作成されました。
– 茅ケ崎のお年寄りがみんな元気だと。どうしてかな?と。食事にあるんじゃないか?ということで色々取材したところ、
ご飯は大根めし、麦めし、米+麦+海藻めし、粟めし。そういう要するに、雑穀を食べていた –
“ながらみ”の縄文貝塚
生悦住さんは、他にも様々な活動をされ、「NPO法人 環境まちづくり湘南」の理事もされています。
この法人では、北陵高校の敷地(下寺尾)に貴重な文化財があることを、茅ヶ崎の人が知らないので、考古学の大学の先生を招いてシンポジウムを開催したそうです。
– その土地というのは、縄文、弥生、古代、いつの時代も魅力があった所なんでしょうね。
あの下のところまで海だった。縄文時代の貝塚がある。
弥生時代に村が出来て、外から攻められないように堀が掘ってある。
その次、古代になってお役所(高座郡衙)が出来た。
そういうのが、縄文、弥生、古代とあるところが素晴らしい。 –
この土地は、7世紀末から9世紀後半の「下寺尾官衙遺跡群」と、弥生時代の「下寺尾西方遺跡」の、時代の異なる2つの国指定史跡として指定されました。
– 茅ケ崎の貝塚、知ってます? 二枚貝じゃないんですよ。貝塚にある貝、“ながらみ”なんですよ。
それが今でも茅ヶ崎の海岸にいて、食べられるんです。茹でて。美味しいんですよ。 –
茅ヶ崎の縄文時代の貝塚にある巻貝“ながらみ”(キサゴ)が、今でも、しらすを売っているお店で一緒に売られているそうです。
ちがさき体験観光ツアーの事業化
農水省の交付金が出るのは1年間だけなので、「交付金が切れると尻切れトンボで終ってしまう。」「これは継続してきたい。」と生悦住さんは言います。
「ちがさき体験滞在型 旅行推進協議会」は、農水省の交付金を得るために設立されたそうですが、実際の活動は 生悦住さんのほか、同じく70代の3名で行っているそうです。
交付金が終った後も 活動を継続するには、企業化(ビジネス化)する必要があります。
難しいのは、価格を高くするとお客さんが集まらなくなり、安くすると農家に儲けが出ず、やる気が無くなってしまうことだと生悦住さんは言います。
現在は仲間うちに来てもらうモニターツアーのため、集客はしていないそうです。
これから、チガラボで知り合った方に募集の仕方を教えてもらい、ホームページを作ってもらうと言います。
– いつも、「教えてください」から入るんです。
「チガラボでお会いした生悦住です。」「教えてください」「時間ください」でメールして・・・。 –
また、外国の方と近づくために国際交流協会に入り、「茅ヶ崎の外国の方に入ってもらい、意見を聞きたい。」「自分の国に、茅ヶ崎のいい所を発信してもらいたい。」とのことです。
私は子供の頃から茅ヶ崎で育ちました。「茅ヶ崎インバウンドプロジェクト」のお話を最初に聞いたとき、「茅ヶ崎の何を、外国人に見せたいのだろう?」と思いました。
生悦住さんは、茅ヶ崎の土地に、それこそ縄文時代から息づいて来たであろう食を中心とした文化や、その文化と自然とのつながりを、茅ヶ崎の観光資源にしたいと思われているのだと感じました。
「茅ヶ崎の伝統食」には、私が子供の頃に食べたものもあり、質素なもので観光客に出すようなものではないように感じますが、そういうものが消え去りつつあり、貴重なものになって来ているのだと気付かされました。
今、茅ヶ崎は移住者がどんどん増えていて、その過程は、昔ながらの茅ヶ崎が薄まっていく過程でもあるように感じます。
取材を通じて何よりも驚かされたのは、70代の生悦住さんの情熱と行動力、そして、上から物をおっしゃらないお人柄です。
茅ヶ崎の薄まりつつある部分が、茅ヶ崎らしさとしていつまでも残っていくように、生悦住さんのご活躍をお祈りします。
生悦住さんに代わりまして、「茅ヶ崎インバウンドプロジェクト」にプロジェクトの協力者として、あるいはツアーの参加者として、ご興味のある方のお問い合せを心よりお待ちしています。
文:木村美穂
プロジェクト名 | 茅ヶ崎インバウンドプロジェクト |
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代表者 | 生悦住型造さん |