この記事は、「”書くこと”で地域と繋がる講座(全3回)」を通じ、講師のフリーライター池田美砂子さんのサポートのもと、参加者の原田將裕さんが地域で活動する方にインタビューし、まとめたのもです。
あなたが普段口にしているもので、おいしいと思うものは何ですか? そう誰かに尋ねられ、それが何かは説明できたとしても、それをどうしておいしいと思うのかを説明するのは、なかなか難しいような気がします。ぼくも、おいしいものやそれを食べることができる場所を知っていて、そのおいしさに疑いはないけれど、おいしさの理由について説明を求められたら、きっと答えに困ってしまう。
当然のように、人は誰もが生きるために、日々何らかの食物を摂取している。であれば、食べることは生きること、と言えなくもないのかもしれない。いただきます。ごちそうさま。命をいただくのと同時に、おいしさの理由を意識することができたなら、食べることのありがたみをもっと深く感じられるような気がする。それは、生きることの喜びや幸せにも、もしかしたら、つながるのかもしれない。
茅ヶ崎の赤羽根には、そんなおいしさの理由を実感できるEdible Park 茅ヶ崎という場所がある。
Edible Park 茅ヶ崎が何かと聞かれたら、貸し農園ということになるけれど、そこには野菜づくりだけに留まらない人と土との多様な触れ合いの機会がある。一言で言うなら、食と農と遊びのテーマパーク。活動の基本は畑での野菜づくりではあるが、「農業(パーマカルチャー・炭素循環農法)」と「コミュニティ」と言うキーワードを軸に、参加者みんなで獲れたての野菜を使って料理をしたり、竃やビニールハウスなどの設備をセルフビルドで作ったり、養鶏や、産みたての卵で作った卵かけご飯を食べる会を開催したりと、その活動内容は実に幅広い。
枠に囚われない自由な発想を参加者が各々持ち寄り、とにかくみんなで楽しみながら実践してみる。もちろんうまくいかないこともたくさんあるが、正解を求めず試行錯誤を繰り返すその工程を、暮らしの中に取り入れておもしろがることがEdible Park 茅ヶ崎の活動における一番の魅力だ。ほんの数年前まで荒れ果てた更地だったこの場所は、今ではそんな参加者一人ひとりの発想と実践が積み重なって、まさにテーマパークのようなわくわくする体験を得られる空間となっている。
2017年にEdible Park 茅ヶ崎がスタートした当時から活動を続けている田中夫妻。参加のきっかけは、市内で貸し農園を探していた奥様の佐知子さんがご主人の由二郎さんを誘って見学に来たことだった。野菜づくりに留まらないEdible Park 茅ヶ崎の活動に魅力を感じた佐知子さん。一方、由二郎さんはこの場所のロケーションのあまりに素晴らしさに即一目惚れ。今では、毎週のように夫婦そろってEdible Park 茅ヶ崎での活動を楽しんでいる。二人が感じるEdible Park 茅ヶ崎の魅力を尋ねてみた。
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- 肥料や農薬に頼らず、土が持っている自然の力により野菜を育てる炭素循環(たんじゅん)農法をベースとした野菜づくりを通じて、食の安全や生産流通、種や土のことを考えるきっかけになりました。人の手を加えなくても自然に木々が育ち森ができるように、森が生命を育み命の循環が生まれるように、私たちに与えられたありのままの環境の中で、自然に負荷をかけることなく持続可能な暮らしや社会を自分なりに楽しみながら作っていくことに喜びを感じています。食べることは生きることで、野菜を作ること自体が社会と関わることでもある、と思います。(佐知子さん)
- 気持ちの良い風景を眺めながら大好きな土いじりを思う存分楽しめることが嬉しいし、自分で作った土からおいしい野菜ができること、それを口にできるありがたみを感じられることが幸せです。普段スーパーで買っている野菜を自分たちで作ってみると、今まで知らなかったことがたくさんわかってくる。当然失敗することもありますが、試行錯誤することが楽しいし、がっかりすることも楽しいんです(笑)。(由二郎さん)
清水謙さんは、Edible Park 茅ヶ崎の発起人である。実のところ、農業をキーワードに活動をしたかったと言うよりも、たまたま農園として使えそうな土地があったことから、活動のコンセプトを決め動き出した、と言うのが本音らしい。
- 始めた時はまさに荒野でした(笑)。完成した場所に来てもらうと言うよりも、みんなで一緒に作り上げていく。作っては壊し、作っては壊しを繰り返しながら、少しずつ形になって来ました。今の状態もあくまで現状に過ぎなくて、常に変化を続けています。野菜づくりにしても何にしても、やったこと、作ったもののクオリティを求めるよりも、やってみて、作ってみて、失敗することや学ぶことが大切だと思います。参加者には、子どもから年配の方まで幅広い年代の方がいて、みんなそれぞれ好き勝手にいろいろなことをやっているけれど、お互いに口出しはしません。それは、子どもに対しても一緒です。大人はよく子どものためにと思ってお膳立てをして、成功体験を積ませようとをしますが、Edible Park 茅ヶ崎ではそうはしません。好きなようにやらせて失敗もさせます。失敗体験が一番の学びになるのです。大人もそうですけどね(笑)。(清水さん)
Edible Park 茅ヶ崎のホームページを見ると、活動の概要やコンセプトが載っている。パーマカルチャーや炭素循環農法、コミュニティのこと、食や農の問題のこと、今後のビジョンのことまでも。これを見てぼくは、Edible Park 茅ヶ崎のことを環境や食料に関する問題を提起して解決を図るための活動体として捉えていた。ところが、話を聞いてみるとどうもそうではないようだ。
- Edible Park 茅ヶ崎の活動は、人の意識を変えようとか、どうこうしようと言うものではありません。参加する方が楽しく無理なく続けられることが大切で、それを見た周りの人がどう感じるか、それで十分なんです。環境や食料問題から入るのではなく、楽しい、おいしいと言うわかりやすいきっかけからスタートしてもらいたいのです。こう言う暮らし方ができたら素敵と言うのを体験できる実験的な空間であり、この場所からまち全体にその楽しい雰囲気が広がっていったら良いと思っています。楽しいアイデアをみんなで混ぜ合いながら、意識ユルイ系で行きたいですね(笑)。(清水さん)
Edible Park 茅ヶ崎のことが気になって、つい先日、ぼくは農園を見学させていただいた。開けた青空の下、そこにはきれいに整えられた畑が広がり、参加者の方が作ったであろうかわいらしい案内看板や見たこともない形をした竪穴式住居があった。汗をかきながら黙々と畑を耕す由二郎さんの姿もある。
案内してくださったのは、田中夫妻と同じくEdible Park 茅ヶ崎の中心的なメンバーである石井光さん。園内を一通り案内していただいた後、わくわくした気分になっていたぼくに石井さんは農園で育てているニワトリの卵を一つ、お土産に、とくださった。手に取ったほんわりとした生みたての卵と、命の温かさ。その日の夕飯にご飯にかけて食べたその卵は、特別においしかった。Edible Park 茅ヶ崎に参加されている方が感じているように、ぼくもEdible Park 茅ヶ崎でおいしさの理由を実感することができたのだ。
Edible Park 茅ヶ崎は野菜づくりをきっかけに、暮らしの中に一つの形として楽しみを提案するショウルーム。のぞいて見たら、あなたの暮らしはもっとおいしく、もっとおもしろくなるかもしれません。
文:原田將裕
プロジェクト名 | EdiblePark茅ヶ崎 |
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始動年 | 2017年 |
代表者 | 石井光さん |
連絡先 | info@ediblepark.com |
ホームページ・SNS |
ウェブサイト:https://ediblepark.com/ |